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銀河系の西の渦状肢───星図にものっていない寂れた一角に、ちっぽけで貧相な黄色い恒星がある。その星からおよそ9200マイル離れた軌道をめぐる、青緑色のこれまた小さな惑星がある。(『銀河ヒッチハイク・ガイド』より)

だれもが憧れと羨望を抱いているはずの宇宙極秘プロジェクトチーム『チャーエーコン』の一員である私は、超マイナー惑星『ズン』の研究とそこに棲む生命体『ベッキー』の観察、およびズンと我々の惑星の資源を潤滑に交換するためのコンタクト手段を探るべく、多忙な日々を過ごしている。いや、正確には、そのようにみせている、だ。

そのベッキーだが、もともとは我々の子孫であると言われているだけに容姿に別段珍しいところはない。棲息地域は、平地に森林、砂漠、氷上など水域でなければどこでも生活していけるようだ。ただ、ベッキーが多くいる場所には、さらなるベッキーを呼び寄せる磁場のようなものが発生するようで、地域によって数にムラがある。集まったら集まったで、なんでもムキになって売ったり買ったりし始め、アッパーな集団と化すのも特徴のひとつだろう。私が担当しているベッキーは、 島で生活するアッパー型で、別の惑星の学者が熱心に研究しているドロンパベッキーと同様、原始テレビ、原始電話、 原始ネットワークとありとあらゆる原始物質に無我夢中になっており、常に半狂乱状態で手に負えないタイプである。昔一大ブームを巻き起こし、宇宙社会現象にもなった大教訓映画『続・ひとつズレたら大間違いの世界』が、そのままこの島で展開されているといえば分かりやすいだろう。言い忘れていたが、島の名称は『シマチュウ』である。

『チャーエーコン』の衛星オフィスに出勤すると私は、シマチュウ原始テレビで絶賛放映中の連続ドラマ『あまちゃん(シマチュウ名称)』を社会学観点からの研究と偽りながら毎日見て、仕事をしているフリをする。このドラマ、見る度に疑問に思うことがある。それは本編の前に、毎回必ず同じ余興音楽が流れることである 。これは我々の音楽で言うところの、繰り返し聴くことで段々可哀想な気持ちになってくる、情状酌量音楽『バーンワッシ』に近いと言えば近いのだが、この余興音楽は底抜けに明るく、どこか人を馬鹿にしたようなリズムで、可哀想とは微塵も感じない。何はともあれ、ズン時間で15分のドラマに毎回1分以上の余興音楽を流すのは、あまりにも非合理的だ。私は、余興音楽にはベッキーにとって大事な【何か】があるのではないかと睨んでいる。でもそんなことを会議で発言しようものなら仕事が出来て忙しくなるので、忘れるのが一番だと自分に言い聞かせてから、いつも本編を楽しむのだった。

ドラマを見終えるとやることのなくなる私は、ポケットから出す度に思わずニヤついてしまう、新型万能空間ディスプレイ『ブラックホール2s』をいじって時間を潰すのが日課だ。ある日、自由に時間軸を過去未来とスライドしながら、あらゆる時代の『ズン』を観賞できるアプリ『ズンズンズン』を使って過去のシマチュウ番組をいろいろ見て楽しんでいると、妙なことに気づいた。ベッキーが大好きだと思っていた余興音楽は、番組によっては邪険にされているものもあるようだ。 例えば昼の生放送番組『笑っていいかも(シマチュウ名称)』の余興音楽は、過去に戻る程に派手になっていき、逆に現在に進める程あっさりとした簡略式になっていく。これだけに絞って考えれば、我々で言うところ の『ハンドタオル大進化論』と同じになるのだが、支持され続ける余興音楽も多くあることを考えると、これには当てはまらないだろう。しまいには考えるのも飽きて、どうでも良くなったのだが。

ところで、『チャーエーコン』の衛星オフィス内にはセクシースポットが合計26カ所ある。お気に入り女子研究員4人全員のパンチラを見ることに成功するか否かで、一日の気分が随分変わってくるものだ。この日は、作戦がことごとく失敗に終り、余計ムラムラしたので、宇宙異性立体刺激空間ブックでも買おうと、近くの空間媒体書店にこっそり出かけたら、ズンおたくで有名な『バーイスアシモフモ博士』 の新刊『ベッキーはなぜベッキーでなくてはいけないのかは絶対に買ってはいけない』が販売登録されていた。試しに、空間ブックをパラパラとスライド読みすると、気になることが書いてあった。くだりはこうである。

【ズンの余興音楽は、ベッキーの脳に非常に繊細に響くようにできており、感受性をコントロールするファクターとしても上手く活用されているようだ。我々とベッキーの友好関係を結ぶには、共振音楽に変換可能な余興音楽を探し、それでファーストコンタクトを試みるのがベストだろう。ズンの原始映画『未知との送風』がそれを裏付けており云々……】

ピンときた私は、その場でポケットから万能空間ディスプレイ『ブラックホール2s』をニヤッとして取り出し、『ズンズンズン』でズンの時間軸を数年程進めて『あまちゃん』がどうなっているかを確認した。あまちゃんは『まだまだあまちゃん』とタイトルに若干変更があるものの、依然継続して放送しており、余興音楽のほうも相変わらず人を小馬鹿にしながら軽快にフルタイムで流れていた。もしかしたらベッキーとのファーストコンタクトを可能にする共振音楽は、あまちゃんの余興音楽ではないのか。だから自分もあまちゃんの余興音楽を繰り返し聴いても苦にならないのか……。
そのまま無断で帰宅し(特に咎められることはない)、すぐに空間ネットワークを立ち上げ、宇宙大オークションと言うより、その中の無限リンクのただのヤフオクに入って『あまちゃんサントラ』をベッキーになりすまし入札した。ムキになってしまったせいで定価以上で落札してしまったが、どうせシマチュウの偽造貨幣で支払うのだから何の問題もない。ついでに再生装置も即決価格で購入した。だが、問題はあった。出品者から送付先の住所を訊かれたのだ。これはまずい、ベッキーに正体を悟られると宇宙秩序機構に自分の存在を抹消されてしまう。焦った私はすぐにキャンセルを申し出た。そして私は『非常に悪い落札者』となった。結局、『あまちゃんサントラ』は手っ取り早く瞬間移動装置で盗むことにした。
翌日、無断欠勤して(特に咎められることはない)、『宇宙秩序機構ホーガン』を訪ねた。専門家連中に『あまちゃんサントラ』を聴かせてみると、この22曲目の音『地味で変で微妙』だっけ、これ共振音楽に変換すればファーストコンタクトいけそうじゃない……と、連中は無関心ながらも少し関心を示した。そしてだらだらとした会議の末、宇宙史上初のベッキーとのコンタクト許可が、ちょっとなあなあで下りたのだ。帰り道、私は宇宙空間移動バスの中で、もしかしたら功労賞でボーナス出たり、女子研究員をデートに誘ってその日のうちに……ムフフなどと妄想を膨らませて楽しんだりして興奮していた。でも余興音楽、まったく関係なかったな、と、若干複雑な気持ちになっていたら、いつのまにやら家に着いていたのだった。さっそく『あまちゃんサントラ』に収録されている『地味で変で微妙』を『宇宙秩序機構ホーガン』から特例で借りた万能変換ソフト『スーパーモノリス』に取り込んだ。すると共振度97%という驚異的な数値で共振音楽に変換されたのだった。

さっそく私は『宇宙倫理委員会ヴォネガット』に許可をもらい、ファーストコンタクトを試みることにした。出来上がったばかりの共振音楽をめんどくさい原始形態CD-Rにコピーして、音楽家として有名なサカサマリュウイチ教授の自宅のデスクに、シマチュウの言葉で『力作』と盤面に書いて瞬間移動させた。空間モニターでしばらく様子を見ていると、すぐにリュウイチ教授はデスク上のCD-Rに気づいた。手に取るなり舌打ちしてゴミ箱に投げ捨てたので、私も頭にきて、盤面に今度は我々の言葉で『ymo!』と書いて再度置いたら、いつのまにか、またデスクにあるCD-Rを訝しみながらも、今度はそっと鞄にしまったのだった。それから数日後、原始音楽テレビに出演していたリュウイチ教授が、興奮気味に共振音楽のことをこう話した。

「人間が創ったとは思えないね、世界一、いや宇宙一の最高のリミックスだよ、これは!」

リミックスって何……。終わった。呆れるほど素っ頓狂な解釈だ。まさしくこれは『あまちゃん』で言うところの『じぇ……』いや、それはシマチュウかぶれだと思われる、やめておこう。

 

文章・シノザキサトシ (禁断の多数決)


【取上げたアーティスト及び楽曲】

【title】
連続テレビ小説「あまちゃん」オリジナル・サウンドトラック

【official site】
http://www1.nhk.or.jp/amachan/

【itunes】
https://itunes.apple.com/jp/album/lian-xuterebi-xiao-shuo-amachan/id656553236