Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on Google+Pin on PinterestShare on Tumblr

JR原宿駅から明治通りに向かって表参道を下っていくと、Apple社の最新端末が発売される度に、報道番組に取り上げられるソフトバンクショップが左手に見えてくる。そこを過ぎるとすぐに、人ひとり通るのがやっとの路地がある。そこに入って10mほど歩くと、また幅の狭い路地が右に現れ、そこをさらに進んでいくと、だんだん谷底にいるような妙な暗さになり、そのうちにトンネルへ入ったような闇になる。かろうじて光が射しているほうを目指して歩いていき、なんとか抜け出ると、そこには地平線が見える砂漠が広がっているのだ。自分はこの感動を共有したくて、あらゆる友人におもしろい場所だから行ってみろと勧めても、最初の路地は見つけられるが、くねくねと歩いているうちにいつのまにか竹下通りのほうに出てしまい、そんな異国な雰囲気の場所へはたどり着けないと口を揃えて言う。
自分は毎日が暇なので、昼時に原宿周辺にある適当なコンビニで弁当を買って、ここに来ては誰もいない殺風景な景色を眺めながら弁当を食べるのが数少ない楽しみのひとつなのだ。ゴミは持ち帰らない主義なので食べ終わると空容器は放置して帰るのだが、不思議と次に来たときには容器は無くなっている。それにしてもここはいつも薄暗くて昼なのか夜なのかよくわからない。遠くにピラミッドのようなものが見えるが、歩いていくにはかなり時間がかかりそうなので行ったことはない。
ある日、ローソンで幕の内弁当を買っていつものように食べていると1人の女が目の前に現れた。痩せているが若くて肌が恐ろしいほど白い。フードの付いた絹のようなものを一枚纏っているだけで、裸足だった。ここで人と会ったのは初めてだ。女は黙って幕の内弁当を見つめている。唐突な出来事に動転してしまった自分は考えもなしに話かけた。「ここは渋谷区なんですかね?代々木公園ではないでしょうし、不思議な場所ですね」女は理解しているのかいないのか、ゆっくりと頷いて、自分に向かって手を差し出した。自分はヨコシマなことを考えて、弁当を慌てて空にしてそのまま地面に放置し、立ち上がった。すると今度は女はしゃがんで、空になった弁当の容器をそっと手に取った。容器をまるで自分の飼い猫のように抱いて上蓋を優しく何度も撫でている。その姿に魅かれていると、いつのまにか自分と女は宮殿のような場所に移動していた。広い空間にはステージがあり、様々な楽器が並べられている。ドラムセット、キーボード、ギターにベース、タッチパネルで操作すような機材、和太鼓、ほら貝まであった。頭を混乱させながらそれらを眺めていると、女に袖を掴まれグッと胸元に引っ張られた。女の大胆な行動に下半身はインディペンデント状態で抑制不能に入ろうとしている。しかし、女のジェスチャーをよく観察してみると、なにやら演奏してくれとねだられているようだった。自分は演奏できないとジェスチャーで返すと、女は寂しそうな顔をした。その顔が美しく艶かしいがために、いまだインディペンデントであることを誇らしげにしている下半身もいる。こいつを落ち着かせるために、いろいろ真面目に考えてみた。自分以外の他所者がここで演奏したのは間違いない。機材には砂埃が溜まってるが演奏した日がいつなのか、何日前なのか、もしくは何年も前なのかはわからない。ステージの造りから考えると、大勢の人が鑑賞できるのがわかる。女は自分に演奏能力がないことを理解したのか、そっと自分の手を引き宮殿の奥へと案内してくれた。そこは何本も柱のあるさらに広い空間になっていた。その中心に大きな椅子に腰掛けたアイヌ人のような老人が座っているが、死んでいるように動かない。その老人の横には腰にリボンを巻いたダサいレオタード姿のスタイルの良い女が立っていた。
広い部屋の壁にはあらゆる形の弁当の空容器が立派に祀られていた。自分が割と好んで食べている、弁当の容器の形ばかりだった。捨てた容器はここに運ばれていたのだ。真正面には、ひときわ目立つパーティ用の空容器が祀られている。かなり大きい。しかしこれは自分が捨てたものではない。
レオタード女がインチキ臭い日本語で話しかけた。

「あなたは私達には到底手に入れることのできない神器をたくさん運んでくれました。過去にこの国に訪れた音楽家を再び招致するため、あなたを指導者として認定します。隣の女は音楽家全員招致後、あなたの妻としてこの国で一緒に暮らすことになります。この国に再び音楽が流れれば、人は自然と集まってくるのです。我々はそれを切に望んでいます。男の音楽家達はバンクーバーにいます。女の音楽家達はアムステルダムにいます。旅立つ前に、まずは協力者を集めなさい。その方法今から教えます。

竹下通り出口にあたる明治通り側を特殊なトラックで人が出られないようにせき止めなさい。そして竹下通りの入り口側からは、水を満タンに入れた特殊大型タンクローリーを数十台用意して、バケツをひっくり返すように次々と竹下通りに流し込みなさい。すると通りは『流れるプール』状態となり、有能な人物だけがここへ流れ着きます。」

そんなことが本当に可能なのか疑わしい限りなのだが、横にいる上目遣いの女を見ていると、なにか勇気のようなものが湧いてきた。
特殊大型タンクローリーなんてどうやって用意すればいいのか今は検討もつかないが、行動を起こす価値があるように思う。これに賭けよう。
下半身も自分ももう止まらない。これが女の力というものなのか。

いや、それよりも音楽の力だ、凄いのは。

 

文章・シノザキサトシ (禁断の多数決)


 

KINDAN ZINE 001 & captain beefheart
KINDAN ZINE 001 : Liner notes

『アラビアの禁断の多数決』
(特典『禁断の多数決 ZINE』収録)

【制作】AWDR/LR2